最近、不動産クラウドファンディングの広告が多いですが、私なら大切な人に絶対に勧めません。今回はその理由を書きたいと思います。
はじめに
みなさん、「匿名組合契約」って知っていますか?
最近広告がたくさん出ている不動産クラウドファンディングを含むソーシャルレンディングで一般的に利用されている仕組みで、商法では下記条文があります。
第535条 匿名組合契約は、営業者がその営業のために出資を受けることを目的とする契約とする。
2 前項の出資は、金銭その他の財産でなければならない。
条文を見ただけでは「匿名組合契約」の詳細は分からないですね。
匿名組合契約とは?
簡単に言うと、ある会社やプロジェクトにお金を出す人たち(投資家)が、その会社やプロジェクトの運営者と契約を結んでお金を出す仕組みのことです。
ここで「匿名」とは以下の特徴を反映しています。
出資者の匿名性
匿名組合契約では、出資者の名前や個人情報は公にされません。契約自体は営業者(事業者)と出資者との間で締結されますが、出資者の個人情報は一般に公開されず、事業運営においても公表されることはありません。この点が「匿名」と呼ばれる理由の一つです。
出資者の権利と義務の限定
匿名組合契約において、出資者は事業の運営には関与しません。出資者は資金を提供し、その対価として事業の利益を分配されますが、事業の運営や意思決定には関与しないため、名前が前面に出ることはありません。この限定的な役割も「匿名」と関連しています。
法的な背景
日本の商法(第535条 – 第542条)では、匿名組合契約は、営業者が自己の名をもって行う事業に対して、出資者が出資を行い、その対価として事業の利益を分配される形態と定義されています。この契約形態は、出資者の匿名性を前提としており、商法に明記されています。
ポンジスキームとの関係
匿名組合契約では、事業で発生した損失については基本的に営業者が負担し、出資者は出資額を超える損失を負うことが無い点がメリットと言えます。その一方、投資家保護が不十分で個人投資家から自分の出資したお金がどう使われているかも分かりません。
匿名組合契約のこうした特性がポンジスキームとの親和性が高く、少なくとも私は「匿名組合契約」と聞くとポンジスキーム*を連想してしまいます。
*ポンジスキームとは簡単に言うと、出資してもらった資金を運用しその利益を出資者に還元すると騙って高飛びする詐欺の手法です。1920年代のアメリカの天才詐欺師チャールズ・ポンジが考案したことに由来し”ポンジスキーム”と呼ばれています。
匿名組合契約だからといってポンジスキームとは限りませんが、ポンジスキームは匿名組合契約であったり、明確に匿名組合契約ではなかったとしても個人投資家からお金がどう使われているか見えないようになっています。
過去の事件
平成電電事件(2005年破産)
平成電電事件は、日本の通信会社「平成電電」による大規模な投資詐欺事件で、日本の経済史における重要な投資詐欺事件の一つであり、匿名組合契約を悪用して投資家を欺いた事例です。この事件は、投資家にとってのリスク管理の重要性と、透明性の確保がいかに重要であるかを示しています。
概要
会社の設立と事業内容:
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- 平成電電は、1997年に設立され、通信事業を中心に活動していました。主な事業は、通信設備の設置やインターネットサービスの提供でした。
資金調達の手法:
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- 2002年から2004年にかけて、平成電電は匿名組合契約を通じて約200億円の資金を集めました。投資家には高い利回りを約束し、資金を募集しました。
問題点
虚偽の説明:
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- 投資家に対して、通信設備の設置や運営による高収益を約束しましたが、実際にはこれらの事業は期待通りの収益を上げていませんでした。多くの資金が事業運営ではなく、他の目的に流用されていました (Wikipedia)。
新規投資での配当支払い:
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- 実際には事業収益が十分でないため、新規の投資家から集めた資金を既存の投資家への配当に充てるポンジスキームのような構造を持っていました (Socialen)。
破綻と影響:
法的対応
- 刑事訴追:
- 事件後、平成電電の経営陣は詐欺の疑いで逮捕・起訴されました。裁判では、虚偽の説明と資金の不適切な使用が明らかにされ、多くの経営陣が有罪判決を受けました。
- 投資家への対応:
- 投資家の多くは、損失を被りましたが、一部は裁判所を通じて補償を受けました。しかし、全額が返済されたわけではなく、多くの投資家が大きな損失を抱える結果となりました。
maneo 事業停止
maneoは、日本最大のソーシャルレンディングプラットフォームの一つとして知られていました。しかし、2018年から2020年にかけて、いくつかの問題が発生し、最終的に事業停止に至りました。この事件について詳細に説明します。
「過去の元本割れは0」と謳っていましたよ。
maneoの背景とソーシャルレンディングの仕組み
maneoは、2008年に設立され、ソーシャルレンディングを通じて個人や企業に資金を提供するプラットフォームを運営していました。ソーシャルレンディングとは、インターネットを介して投資家から集めた資金を借り手に貸し付け、その利息を投資家に分配する仕組みです。ここでも匿名組合契約が利用されました。
問題の発生
虚偽の説明と不適切な資金運用
2018年、maneoは金融庁から業務改善命令を受けました。その背景には、以下のような問題がありました:
- 投資案件の虚偽説明: 投資家に対して、実際の投資先やそのリスクに関する情報を虚偽または誇張して伝えていました。
- 不適切な資金運用: 集めた資金が本来の目的とは異なる使い道に流用されていたとされています (Wikipedia) (AIre VOICE)。
具体的な内容
事業停止の経緯
2018年6月、金融庁はmaneoに対し、業務改善命令を発出しました。この命令の内容には、投資家保護のための措置や、内部管理体制の強化が含まれていました。しかし、maneoはこれに十分に対応することができず、問題は続きました。
投資家への影響
maneoの問題が表面化するにつれ、多くの投資家が不安を抱きました。一部の投資ファンドでは、分配金の支払いが滞り、投資家への返済が行われなくなりました。これにより、多くの投資家が損失を被りました (Socialen)。
法的対応と事業停止
集団訴訟
投資家の中には、損失を回復するために集団訴訟を起こす者もいました。これにより、maneoの不適切な行為がさらに明らかになりました。
事業停止
最終的に、2020年にmaneoは事業を停止しました。これは、金融庁からの再三の指導や投資家からの訴訟などにより、事業の継続が困難になったためです (AIre VOICE)。
SBIソーシャルレンディング(2021年廃業)
SBIソーシャルレンディング(”SBISL”)は前述のmaneoに次ぐ業界2位の規模でしたが、廃業しました。SBISLも匿名組合契約を使用していました。
- 資金使途違反の発覚:
- SBIソーシャルレンディング(SBISL)は、複数のファンドで資金使途の違反が発覚しました。特に、A社関連の太陽光発電や不動産開発プロジェクトに関するファンドで問題が多発し、募集した資金が本来の目的とは異なる用途に流用されていたことが明らかになりました。
- 第三者委員会の調査:
- これらの問題を受けて、SBISLは第三者委員会を設置し、詳細な調査を行いました。その結果、融資残高のうち大部分が資金使途違反と認定され、投資家に対する説明と実際の資金運用に大きな乖離があったことが判明しました。
- 金融庁からの業務停止命令:
- 金融庁は、SBISLに対して業務停止命令を出し、厳しい対応を求めました。この命令により、SBISLは新たな投資ファンドの募集を停止し、既存ファンドの運営に集中することを余儀なくされました。
- 廃業と事業撤退の決定:
- 2021年5月、SBIホールディングスはSBISLの廃業とソーシャルレンディング事業からの撤退を発表しました。この決定は、投資家保護の観点から既存ファンドの償還を優先し、今後の新規募集を停止する形で行われました。
影響と教訓
- 投資家への影響:
- SBISLの廃業により、多くの投資家が資金の返還を求めることとなり、一部の投資家は損失を被ることになりました。SBIホールディングスは、投資家への返金手続きを進める一方で、信頼回復に努めました。
- 業界への影響:
- この事件は、日本のソーシャルレンディング業界に大きな影響を与え、業界全体の信頼性が問われる結果となりました。投資家保護のための規制強化や、事業者の透明性向上が求められるようになりました。
その他の事件や事件予備軍
他にも、匿名組合契約を使用した事件はいくつかありますが、安愚楽牧場事件(2011年 破綻)は有名で、被害総額は4200億円と日本の投資詐欺事件としては最大級の規模でした。
最近だと「み●なで大家さ●」がかなり香ばしいです。
問題提起
あのSBIホールディングスでも手に負えなかった匿名組合契約を使用したソーシャルレンディングは信用に値しますか?